
この記事の要点
「利益が出ているのに、なぜ預金が増えないのですか」。決算のご報告の場で、経営者の方からよくいただくご相談です。
利益の計算には出てこないところで、お金が出ていくからです。設備投資、借入金の元本返済、配当のほか、見落とされやすいのが仕入代金を払ってから、売上の代金が入るまでの時間差です。この間、会社は仕入や在庫の分を自分のお金で立て替えています。
この時間差を日数で表したのが CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル/現金循環化日数)です。CCCが長いほど、同じ売上でも多くの運転資金(商売を回すために立て替えておくお金)が必要になります。
この記事では、次の会社を例に通しで計算します。
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| 月商(税抜) | 1,000万円 |
| 年間売上高 | 1億2,000万円 |
| 年間売上原価(原価率70%) | 8,400万円 |
| 売上債権回転日数 | 60日 |
| 棚卸資産回転日数 | 45日 |
| 仕入債務回転日数 | 30日 |
CCC = 売上債権回転日数 + 棚卸資産回転日数 - 仕入債務回転日数 で計算します。例の会社は 60日 + 45日 - 30日 = 75日です。
3つの日数の意味と計算式は次のとおりです。
| 日数 | 意味 | 計算式 |
|---|---|---|
| 売上債権回転日数 | 売った代金が入金されるまでの日数(売掛金・受取手形) | 売上債権 ÷(年間売上高 ÷ 365) |
| 棚卸資産回転日数 | 仕入れた商品が売れるまでの日数(在庫) | 棚卸資産 ÷(年間売上原価 ÷ 365) |
| 仕入債務回転日数 | 仕入代金を支払うまでの日数(買掛金・支払手形) | 仕入債務 ÷(年間売上原価 ÷ 365) |
つまりCCCは、会社がお金を立て替えている日数です。
例の会社では約2,318万円です。売掛金・在庫・買掛金の残高から計算します。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 売上債権(売掛金など) | 1億2,000万円 ÷ 365 × 60日 | 19,726,027円 |
| 棚卸資産(在庫) | 8,400万円 ÷ 365 × 45日 | 10,356,164円 |
| 仕入債務(買掛金など) | 8,400万円 ÷ 365 × 30日 | ▲6,904,110円 |
| 立て替えている金額(運転資金) | 売上債権 + 棚卸資産 - 仕入債務 | 23,178,082円 |
この金額が増えた年は、増えた分だけ利益が預金に回りません。
「月末締め翌月末払い」が中心の会社なら、やや長めです。この条件だと、月初の売上は約60日、月末の売上は約30日で入金され、平均すると約45日になるからです。自社の日数が45日を大きく超えるなら、入金の遅い取引先や請求遅れがないかを確認しましょう。
違います。現金売上の多い小売業・飲食業は、仕入代金を払う前に売上の代金が入るため、CCCがマイナスになることもあります。工期の長い建設業や受注生産の製造業では、100日を超えることも珍しくありません。他社と比べるより、自社の過去と比べるほうが役に立ちます。CCCが伸びているなら、回収の遅れ、在庫の滞留、仕入代金の支払いが早くなった、のどれかが起きています。
売上が増えると、売掛金も在庫も同じ割合で増え、立て替えが膨らむからです。このとき追加で必要になるお金を増加運転資金といいます。
この会社の売上が30%増えたとします。取引条件(60日・45日・30日)は変わりません。
| 項目 | 現状 | 売上30%増 |
|---|---|---|
| 年間売上高 | 1億2,000万円 | 1億5,600万円 |
| 売上債権 | 19,726,027円 | 25,643,836円 |
| 棚卸資産 | 10,356,164円 | 13,463,014円 |
| 仕入債務 | ▲6,904,110円 | ▲8,975,342円 |
| 運転資金 | 23,178,082円 | 30,131,507円 |
| 増加運転資金 | ― | 6,953,425円 |
売上が30%増えると、立て替えが約695万円増えます。増えた利益が入ってくる前に、このお金を用意しなければなりません。
大口受注で仕入を増やしたところ、入金より先に支払いが来て、お金が足りなくなる。これが黒字倒産(利益は出ているのに、資金が尽きて倒産すること)の典型です。
急成長の前には増加運転資金を見積もり、自己資金か借入で手当てしてから動くのが原則です。「増収に伴う増加運転資金」は、金融機関にも理解されやすい借入理由です。
入金を早める → 在庫を減らす → 支払いを延ばすの順に考えます。支払いを延ばすのは、取引先との関係や法律の制約があるため、最後の手段です。
10日ずつ縮めた場合の効果です。
| 打ち手 | 戻る現金 |
|---|---|
| 入金を10日早める | 約329万円(1億2,000万円 ÷ 365 × 10日) |
| 在庫を10日分減らす | 約230万円(8,400万円 ÷ 365 × 10日) |
| 支払いを10日延ばす | 約230万円(8,400万円 ÷ 365 × 10日) |
効果が最も大きく、自社の努力で進めやすい打ち手です。
意外に多いのが請求漏れ・請求遅れです。毎月、売掛金の年齢表(残っている期間ごとの売掛金の一覧)で、3か月以上動いていない残高がないかを見ておくと安心です。
在庫は、現金が形を変えたものです。売れずに残っている在庫の分だけ、現金が寝ています。在庫の減らし方は、倉庫に眠っている現金で詳しく説明しています。
一方的な支払いの延長は、取引先の信頼を失います。また、下請法は2026年1月1日から取適法(中小受託取引適正化法)に変わりました。対象となる取引では、手形による支払いが禁止されました(公正取引委員会 取適法、改正内容の解説)。自社が発注側になる取引では、支払条件が法律に沿っているかを先に確認するようにしましょう。
税金の支払いです。増収で利益も増えた年は、増加運転資金と増えた納税が重なりがちです。
法人税は、決算日の翌日から2か月以内に申告・納付します(国税庁 主な国税の納期限)。前期の税額をもとにした中間納付も、次の基準で発生します(法人税法71条(e-Gov法令検索))。
| 税目 | 中間納付の基準 | 中間納付の回数 |
|---|---|---|
| 法人税 | 前期の法人税額 ÷ 12 × 6 が10万円超 | 年1回 |
| 消費税 | 前期の確定消費税額(国税分)が48万円超〜400万円以下 | 年1回 |
| 消費税 | 同 400万円超〜4,800万円以下 | 年3回 |
| 消費税 | 同 4,800万円超 | 年11回 |
消費税の基準額に地方消費税は含みません(国税庁 タックスアンサー No.6609)。消費税の確定申告・納付も、原則は決算日の翌日から2か月以内です(国税庁 タックスアンサー No.6610)。
納税額が増えれば、それをもとに計算する翌期の中間納付も増えます。消費税は、税額が基準を超えると中間納付の回数も増えます(年1回から年3回など)。決算予測の段階で、次の3つを月別の資金繰り表に入れておきましょう。
直近の決算書があれば、次の手順で確認できます。
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決算書をもとに自社のCCCと必要な運転資金を計算し、資金繰り表の形でご提示します。当事務所へお気軽にご相談ください。
※本記事は2026年10月時点の情報に基づく解説です。回転日数には複数の計算方法があり、金融機関の分析とは数値が異なる場合があります。税金の期限は、申告期限の延長の特例を受けている場合などで異なります。