
この記事の要点
「取引先から5%だけ値引きしてほしいと言われました。応じても大丈夫でしょうか」。経営者の方から、よくいただくご相談です。
売上から見れば数%の値引きでも、会社に残る粗利(売上総利益。売上から仕入原価を引いた金額)で見ると、何倍もの重さになるからです。
この重さを知らないままだと、次のようなことが起こりがちです。
反対に、計算の仕方が分かっていれば、どこまで値引きに応じられるか、値上げでどこまで客が減っても大丈夫かを、交渉の前に数字で決められます。
粗利率30%の商品なら、5%の値引きで粗利は16.7%減ります。値引きした金額は、そのまま粗利から差し引かれるためです。売価を下げても、仕入原価は1円も下がりません。
粗利率は、売上に占める粗利の割合です。
この記事では、次の会社を例に通しで計算します。
| 項目 | 金額・割合 |
|---|---|
| 業種 | 卸売業 |
| 年間売上高 | 1億円 |
| 粗利(粗利率30%) | 3,000万円 |
| 主力商品の売価 | 100円 |
| 主力商品の仕入原価 | 70円(粗利30円) |
主力商品の売価を下げると、粗利は次のように変わります。
| 値引き率 | 売価 | 1個あたりの粗利 | 値引き後の粗利率 | 粗利の減少率 |
|---|---|---|---|---|
| 値引きなし | 100円 | 30円 | 30.0% | - |
| 1% | 99円 | 29円 | 29.3% | 3.3% |
| 3% | 97円 | 27円 | 27.8% | 10.0% |
| 5% | 95円 | 25円 | 26.3% | 16.7% |
| 10% | 90円 | 20円 | 22.2% | 33.3% |
「5%の値引き」は、「粗利の16.7%を手放すこと」と同じです。10%値引きすれば、粗利の3分の1が消えます。
5%値引きした場合、販売数量を20%増やして、ようやく粗利が元に戻ります。
値引き要請には「その分、たくさん買うから」という説明がよく付いてきます。元が取れる数量は、次の式で計算できます。
必要な数量の増加率 = 元の粗利率 ÷(元の粗利率 - 値引き率)- 1
| 値引き率 | 粗利を維持するのに必要な数量の増加 |
|---|---|
| 1% | 3.4%増 |
| 3% | 11.1%増 |
| 5% | 20.0%増 |
| 10% | 50.0%増 |
例の会社で、年間2,000万円を買ってくれる取引先から5%の値引きを求められたとします。
| 項目 | 値引き前 | 5%値引き後 |
|---|---|---|
| この取引先への売上 | 2,000万円 | 1,900万円 |
| この取引先からの粗利 | 600万円 | 500万円 |
| 粗利を600万円に戻すのに必要な売上 | - | 2,280万円(数量20%増) |
値引きの100万円は、そのまま粗利の減少になります。会社全体の粗利3,000万円で見ると、約3.3%の減少です。
数量が20%増えれば、仕入・在庫・配送の手間も、仕入代金を先に払うための運転資金も増えます。粗利は同じなのに、忙しさとリスクだけが重くなる点も考えておきましょう。
はい。同じ5%の値引きでも、粗利率15%の商品では粗利が33.3%減ります。
例の会社が扱う、粗利率15%の商品(売価100円、原価85円)で比べます。
| 項目 | 粗利率30%の商品 | 粗利率15%の商品 |
|---|---|---|
| 値引き前の粗利 | 30円 | 15円 |
| 5%値引き後の粗利 | 25円 | 10円 |
| 粗利の減少率 | 16.7% | 33.3% |
| 粗利を維持するのに必要な数量 | 1.2倍 | 1.5倍 |
粗利率が半分になると、同じ値引きでも打撃は2倍になります。薄利多売の商売が値引き競争に入ると危ないのは、このためです。
粗利率30%の商品なら、5%値上げして販売数量が14.3%減っても、粗利は変わりません。値引きと同じ計算を、逆向きに行うと分かります。
粗利を維持できる数量の減少率 = 1 -(元の粗利率 ÷(元の粗利率 + 値上げ率))
| 値上げ率 | 売価 | 1個あたりの粗利 | 数量がこれだけ減っても粗利は同じ |
|---|---|---|---|
| 1% | 101円 | 31円 | 3.2%減 |
| 3% | 103円 | 33円 | 9.1%減 |
| 5% | 105円 | 35円 | 14.3%減 |
| 10% | 110円 | 40円 | 25.0%減 |
数量が減る分、現場の負担も軽くなります。
客離れが心配でも、離れてもよい上限を数字で持っておけば、落ち着いて判断できます。
**値引きを断れない場合は、価格以外の条件で取り返すのが基本です。**値上げをお願いするときは、上がった理由を数字で示します。
値引きで粗利率が下がると、赤字にならないために必要な売上(損益分岐点売上高)が上がります。交渉に入る前に、「この値引きを受けると、赤字ラインがいくら上がるか」を計算しておけば、受けるかどうかを判断しやすくなります。
すべての取引を維持する必要はありません。粗利率の低い取引を整理すると、売上は減っても、手間やコストが減って利益が増えることがあります。まず取引先別・商品別の粗利率を並べ、下位の取引が稼ぐ粗利と、かかっている手間を比べてみましょう。
仕入価格や人件費の上昇分を価格に反映できなければ、賃上げの原資は生まれません。中小企業庁は毎年3月と9月を「価格交渉促進月間」とし、価格転嫁(コスト上昇分を販売価格に反映すること)を後押ししています(中小企業庁 価格交渉促進月間の実施とフォローアップ調査結果)。
交渉では、次の数字を示せると話が進みやすくなります。
「苦しいので上げてください」ではなく、「この品目が○%上がり、御社向けの原価が○円上がったため、○%の改定をお願いしたい」と説明できるかどうかで、結果は変わります。
2026年1月1日から、下請法(下請代金支払遅延等防止法)は取適法(中小受託取引適正化法)に改められました。新たに禁止されたのは、受注側が価格の協議を求めたのに発注側が応じず、必要な説明もしないまま一方的に代金を決めることです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 施行日 | 2026年1月1日 |
| 旧法 | 下請代金支払遅延等防止法(下請法) |
| 主な追加ルール | 協議に応じない一方的な代金決定の禁止、手形払の禁止など |
| 対象 | 資本金や従業員数などの基準に当てはまる取引 |
自社の取引が対象になるかは、取引の内容と双方の規模で決まります(公正取引委員会 改正法の成立について、公正取引委員会 よくある質問コーナー(取適法))。交渉が行き詰まったときは、公的な相談窓口を利用する方法もあります。
次のことを済ませておくと、値引きを求められても落ち着いて判断できます。
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商品別・取引先別の粗利率や、値上げ交渉に使う原価上昇の資料は、会計データから作成できます。どの取引を続け、どれを見直すかの整理も含めて、当事務所へお気軽にご相談ください。
※本記事は2026年10月時点の情報に基づく解説です。計算例は粗利だけに注目した単純なモデルです。実際の判断では、販売数量の変化や固定費への影響もあわせて検討が必要です。