その5%の値引きが、粗利を17%削る|値引きと値上げの本当の重さ

監修:税理士法人Aoi Plus(公認会計士・税理士)

その5%の値引きが、粗利を17%削る|値引きと値上げの本当の重さ

この記事の要点

  • 値引きした金額は、そのまま粗利(売上総利益)から減ります。仕入原価は下がらないためです
  • 値引きは、値引き率よりずっと大きな割合で粗利を減らします(例:粗利率30%・値引き5%なら、粗利は約17%減)
  • 値引き分を数量で取り戻すには、思った以上に多く売る必要があります(例:粗利率30%・値引き5%なら、20%増)
  • 粗利率が低い商品ほど、同じ値引きでも粗利の減り方が大きくなります
  • 値上げは、ある程度客が減っても粗利を保てます(例:粗利率30%・値上げ5%なら、数量が約14%減っても同じ)

「取引先から5%だけ値引きしてほしいと言われました。応じても大丈夫でしょうか」。経営者の方から、よくいただくご相談です。

なぜ値引きの重さを知っておくべき?

売上から見れば数%の値引きでも、会社に残る粗利(売上総利益。売上から仕入原価を引いた金額)で見ると、何倍もの重さになるからです。

この重さを知らないままだと、次のようなことが起こりがちです。

  • 「5%くらいなら」と応じて、利益が思った以上に減る
  • 「その分たくさん買うから」と言われても、何%増えれば元が取れるのか判断できない
  • 客離れを恐れて、仕入や人件費の上昇分を価格に反映できない

反対に、計算の仕方が分かっていれば、どこまで値引きに応じられるか、値上げでどこまで客が減っても大丈夫かを、交渉の前に数字で決められます。

5%の値引きで粗利はいくら減る?

粗利率30%の商品なら、5%の値引きで粗利は16.7%減ります。値引きした金額は、そのまま粗利から差し引かれるためです。売価を下げても、仕入原価は1円も下がりません。

粗利率は、売上に占める粗利の割合です。

この記事では、次の会社を例に通しで計算します。

項目金額・割合
業種卸売業
年間売上高1億円
粗利(粗利率30%)3,000万円
主力商品の売価100円
主力商品の仕入原価70円(粗利30円)

主力商品の売価を下げると、粗利は次のように変わります。

値引き率売価1個あたりの粗利値引き後の粗利率粗利の減少率
値引きなし100円30円30.0%-
1%99円29円29.3%3.3%
3%97円27円27.8%10.0%
5%95円25円26.3%16.7%
10%90円20円22.2%33.3%

「5%の値引き」は、「粗利の16.7%を手放すこと」と同じです。10%値引きすれば、粗利の3分の1が消えます。

値引き分は何%多く売れば戻る?

5%値引きした場合、販売数量を20%増やして、ようやく粗利が元に戻ります。

値引き要請には「その分、たくさん買うから」という説明がよく付いてきます。元が取れる数量は、次の式で計算できます。

必要な数量の増加率 = 元の粗利率 ÷(元の粗利率 - 値引き率)- 1

値引き率粗利を維持するのに必要な数量の増加
1%3.4%増
3%11.1%増
5%20.0%増
10%50.0%増

例の会社で、年間2,000万円を買ってくれる取引先から5%の値引きを求められたとします。

項目値引き前5%値引き後
この取引先への売上2,000万円1,900万円
この取引先からの粗利600万円500万円
粗利を600万円に戻すのに必要な売上-2,280万円(数量20%増)

値引きの100万円は、そのまま粗利の減少になります。会社全体の粗利3,000万円で見ると、約3.3%の減少です。

数量が20%増えれば、仕入・在庫・配送の手間も、仕入代金を先に払うための運転資金も増えます。粗利は同じなのに、忙しさとリスクだけが重くなる点も考えておきましょう。

粗利率が低い商品ほど危ない?

はい。同じ5%の値引きでも、粗利率15%の商品では粗利が33.3%減ります。

例の会社が扱う、粗利率15%の商品(売価100円、原価85円)で比べます。

項目粗利率30%の商品粗利率15%の商品
値引き前の粗利30円15円
5%値引き後の粗利25円10円
粗利の減少率16.7%33.3%
粗利を維持するのに必要な数量1.2倍1.5倍

粗利率が半分になると、同じ値引きでも打撃は2倍になります。薄利多売の商売が値引き競争に入ると危ないのは、このためです。

値上げで客が減っても大丈夫?

粗利率30%の商品なら、5%値上げして販売数量が14.3%減っても、粗利は変わりません。値引きと同じ計算を、逆向きに行うと分かります。

粗利を維持できる数量の減少率 = 1 -(元の粗利率 ÷(元の粗利率 + 値上げ率))

値上げ率売価1個あたりの粗利数量がこれだけ減っても粗利は同じ
1%101円31円3.2%減
3%103円33円9.1%減
5%105円35円14.3%減
10%110円40円25.0%減

数量が減る分、現場の負担も軽くなります。

客離れが心配でも、離れてもよい上限を数字で持っておけば、落ち着いて判断できます。

値引き・値上げの交渉はどう進める?

**値引きを断れない場合は、価格以外の条件で取り返すのが基本です。**値上げをお願いするときは、上がった理由を数字で示します。

値引きの代わりに条件で応じる

  • 数量をまとめてもらう(1回あたりの配送コストが下がる)
  • 支払サイト(売ってから代金が入るまでの期間)を短くしてもらう(CCCが改善し、資金繰りが楽になる)
  • 仕様を簡素化する(原価が下がる)
  • 納期に余裕をもらう(残業・特急対応のコストが減る)

受けられる下限を先に決めておく

値引きで粗利率が下がると、赤字にならないために必要な売上(損益分岐点売上高)が上がります。交渉に入る前に、「この値引きを受けると、赤字ラインがいくら上がるか」を計算しておけば、受けるかどうかを判断しやすくなります。

見直す取引を決める

すべての取引を維持する必要はありません。粗利率の低い取引を整理すると、売上は減っても、手間やコストが減って利益が増えることがあります。まず取引先別・商品別の粗利率を並べ、下位の取引が稼ぐ粗利と、かかっている手間を比べてみましょう。

値上げは「上がった理由」を数字で示す

仕入価格や人件費の上昇分を価格に反映できなければ、賃上げの原資は生まれません。中小企業庁は毎年3月と9月を「価格交渉促進月間」とし、価格転嫁(コスト上昇分を販売価格に反映すること)を後押ししています(中小企業庁 価格交渉促進月間の実施とフォローアップ調査結果)。

交渉では、次の数字を示せると話が進みやすくなります。

  • 主な仕入品目の単価の推移(いつ、何%上がったか)
  • 最低賃金や社会保険料の上昇による人件費の増加額
  • それらが自社の原価に占める割合

「苦しいので上げてください」ではなく、「この品目が○%上がり、御社向けの原価が○円上がったため、○%の改定をお願いしたい」と説明できるかどうかで、結果は変わります。

取適法で何が変わった?

2026年1月1日から、下請法(下請代金支払遅延等防止法)は取適法(中小受託取引適正化法)に改められました。新たに禁止されたのは、受注側が価格の協議を求めたのに発注側が応じず、必要な説明もしないまま一方的に代金を決めることです。

項目内容
施行日2026年1月1日
旧法下請代金支払遅延等防止法(下請法)
主な追加ルール協議に応じない一方的な代金決定の禁止、手形払の禁止など
対象資本金や従業員数などの基準に当てはまる取引

自社の取引が対象になるかは、取引の内容と双方の規模で決まります(公正取引委員会 改正法の成立について、公正取引委員会 よくある質問コーナー(取適法))。交渉が行き詰まったときは、公的な相談窓口を利用する方法もあります。

まとめ:まず何から始める?

次のことを済ませておくと、値引きを求められても落ち着いて判断できます。

  • 主力商品・サービスの粗利率を確認する
  • 「値引き率 → 粗利の減少率 → 必要な数量の増加」の早見表を作っておく
  • 取引先別・商品別の粗利率を並べ、見直す取引を洗い出す
  • 値上げした場合に、どこまでの数量減なら粗利を保てるかを計算しておく
  • 仕入単価と人件費の上昇実績を、交渉資料の形で整理する

関連記事:売上はいくらあればいいか/人を1人増やしていいかを判断する数字

商品別・取引先別の粗利率や、値上げ交渉に使う原価上昇の資料は、会計データから作成できます。どの取引を続け、どれを見直すかの整理も含めて、当事務所へお気軽にご相談ください。

※本記事は2026年10月時点の情報に基づく解説です。計算例は粗利だけに注目した単純なモデルです。実際の判断では、販売数量の変化や固定費への影響もあわせて検討が必要です。