
この記事の要点
「会社に現預金はいくらあれば安全ですか」。経営者の方から、よくいただくご相談です。広告や採用にもっとお金を使ってよいか、銀行からいくら借りるべきかも、この答え次第で変わります。
すべての会社に共通する正解はありません。現金を必要以上に寝かせておくと、成長の機会を逃すこともあります。ただ、次の4つのステップで考えれば、自社にとって「これを割ったら危ない」という残高(安全ライン)を数字で決められます。
以下では、税込月商1,000万円・現預金3,000万円の会社を例に説明します(計算例はわかりやすさのため簡略化しています)。
通帳の残高が、そのまま自由に使えるお金とは限りません。次のお金は、残高から差し引いて考えます。
特に消費税は金額が大きく、年商1億2,000万円規模の会社なら、数百万円単位の「自分のお金ではない現預金」が常に口座にあることも珍しくありません。源泉所得税の納期の特例(所得税法216条)を使っている会社では、最大で半年分の源泉所得税が口座にたまります。納付前の残高だけを見て「余裕がある」と判断すると、納付後に一気に苦しくなります。
また、借入の多い会社は残高も大きく見えます。現預金1億円・借入金1億円の会社が、現預金5,000万円・借入金ゼロの会社より安全とは言い切れません。現預金から有利子負債を引いた「ネットの現預金」も確認しておきましょう。
目安の出し方は2つあります。両方を計算し、大きいほうを目安にすると安心です。
現預金を平均月商で割り、何か月分あるかを見ます。売上代金は消費税込みで入金されるため、月商は税込で計算します。
現預金3,000万円 ÷ 税込月商1,000万円 = 3か月
シンプルな反面、毎月出ていくお金の多さが反映されません。そこで方法Bも計算します。
給与・社会保険料、家賃、リース料、システム利用料など、売上が減っても簡単には減らせない支出を月あたりで集計します。このとき、次の2点に注意してください。
固定費 月500万円(うち減価償却費50万円)、元本返済 月50万円の場合 500万円 - 50万円 + 50万円 = 毎月500万円 3〜6か月分で 1,500万〜3,000万円
今後半年以内に納税・賞与・設備投資などの大口の支払いが決まっていれば、その分を上乗せします。
この会社なら、方法Aで2,000万〜3,000万円、方法Bで1,500万〜3,000万円です。以下では、安全ラインを2,000万円と決めたとして話を進めます。
今の残高が安全ラインを上回っていても、それで安心とは限りません。売上が減ったとき、増えたとき、大口の支払いがあるときに、残高がどこまで減るかを確かめます。
「売上が30%減った状態が6か月続いたら」のように、厳しいシナリオで試算します。売上が減ると、仕入などの変動費も一緒に減る点を織り込みます。
月商1,000万円、変動費400万円、固定的な支出500万円(元本返済を含む)の場合 売上30%減:700万円 - 280万円 - 500万円 = 毎月 ▲80万円 6か月続くと、現預金は480万円減る
30%・6か月は一例です。特定の取引先に頼っている会社なら、その取引先を失った場合(売上半減など)で考えてください。
売上が増えるときにも、現金は先に出ていきます。売上代金の入金は1〜2か月先なのに、仕入や人件費の支払いが先に来るためです。黒字なのに資金が足りなくなるのは、多くの場合これが原因です。
売掛金の回収が2か月後の会社で、月商が1,000万円から1,500万円に増えると 売掛金が 500万円 × 2か月 = 1,000万円 増え、その分の現金が先に出ていく (在庫の増加分と買掛金の増加分が同じ程度の場合)
広告や採用で売上を伸ばす計画なら、広告費や人件費とは別に、この資金も用意しておく必要があります。
今後12か月程度の資金繰り表を作り、現預金が最も少なくなる時点の残高を安全ラインと比べます。
月の中で残高が大きく動く会社(25日に給与を払い、月末に入金がある会社など)は、月末だけでなく、月中で最も少ない日の残高も確認してください。
同じ現預金3,000万円でも、すぐに追加融資を受けられる会社と、赤字続きで追加融資が難しい会社とでは、安全度が違います。後者は安全ラインを高めに設定します。
融資は、資金繰りが苦しくなってから相談するより、業績が良い時期に相談したほうが選択肢が広がります。大きな投資を予定しているなら、早めに金融機関へ相談しておきましょう。
融資の審査を待たずに使える資金も確認しておきます。
ただし、共済や保険を解約すると税金がかかります。共済の解約手当金は受け取った期の益金に、保険の解約返戻金は資産計上額との差額が益金になります。また経営セーフティ共済は、令和6年10月1日以後に解約した場合、解約日から2年を経過する日までに再加入しても、掛金を損金算入できません(令和6年度税制改正、租税特別措置法66条の11。本記事は2026年9月時点の情報です)。
安全ラインを超える部分が、投資に回せるお金の目安です。
現預金3,000万円 - 安全ライン2,000万円 = 使える目安は1,000万円 ここで2,000万円の設備投資を全額自己資金で払うと、残高は1,000万円になり、安全ラインを1,000万円下回る → 少なくとも1,000万円は借入を検討
ただし、「最低いくら借りる必要があるか」と「いくら借りておくべきか」は別の問題です。投資の効果が5年続くなら、全額を長期借入にして、投資から生まれる利益で返していく方法もあります。金利や毎月の返済額、投資の回収期間を見て、自己資金と借入の割合を決めます。
広告費も考え方は同じです。広告を出した後も資金繰り表の一番少ないときが安全ラインを割らないか、売上が増えたときの資金まで用意できているか、効果が出なかったときにも耐えられるかを確認します。
「いくらあれば安心か」を感覚で決めず、数字で安全ラインを持っておく。そうすれば、資金ショートを防ぎながら、お金を必要以上に寝かせずに済みます。
安全ラインの設定、資金繰り表の作成、投資に向けた資金調達のご相談は、当事務所までお気軽にお問い合わせください。