
この記事の要点
「売上は伸びているのに、いつもお金が足りないのはなぜでしょうか」。経営者の方から、よくいただくご相談です。決算書を拝見すると、在庫が多すぎて、倉庫に現金が眠っていることが少なくありません。
在庫を抱えている間、その分の現金が使えなくなります。在庫は現金が形を変えたもの、と考えると実態に合います。
決算書では、在庫は「棚卸資産」として資産に並びます。ただ、仕入代金を払った時点で現金は出ていき、売れて代金を回収するまで戻ってきません。その間も保管費用や金利がかかり、商品は古くなっていきます。
この記事では、次の卸売業の会社を例に通しで計算します。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 年間売上高 | 1億2,000万円(月商1,000万円) |
| 年間売上原価 | 8,400万円(月平均700万円、原価率70%) |
| 棚卸資産(期末の在庫) | 1,500万円 |
在庫回転期間(日)= 棚卸資産 ÷(年間売上原価 ÷ 365) で計算します。仕入れてから売れるまでに平均何日かかっているかを表す数字です。
月数で見たいときは365を12に変えます。あわせて、1年間に在庫が何回入れ替わったかを表す在庫回転率もよく使われます。
| 指標 | 計算式 | 例の会社 |
|---|---|---|
| 在庫回転期間(日) | 棚卸資産 ÷(年間売上原価 ÷ 365) | 約65日 |
| 在庫回転期間(月) | 棚卸資産 ÷(年間売上原価 ÷ 12) | 約2.14か月 |
| 在庫回転率(回/年) | 年間売上原価 ÷ 棚卸資産 | 5.6回 |
在庫は仕入値(原価)で計上されているので、分母も原価にそろえます。売上高で割ると、粗利の分だけ回転期間が短く出てしまいます。
例の会社:1,500万円 ÷(1億2,000万円 ÷ 365)= 約46日 売上原価で割った約65日より、20日ほど短く見えてしまいます
帳簿の在庫が実態と合っていなければ、どの指標も意味を持ちません。次の点を確認しておきましょう。
差が毎年出る会社では、出荷ミスや記帳漏れ、ときには盗難が隠れていることがあります。
例の会社が仕入を絞って在庫を30日分まで減らせば、約810万円の現金が手元に残ります。借入も売上の増加も要りません。
30日分の在庫は、8,400万円 ÷ 365 × 30日 = 約690万円です。今の1,500万円との差の約810万円が、仕入代金を払わずに済んだ分として現金で残ります。
これは、販売と代金の回収がこれまでどおり続き、在庫を減らした分だけ追加の仕入を控えることが前提です。売れない在庫を廃棄したり評価を下げたりするだけでは、現金は生まれません。
| 目標の在庫日数 | 必要な在庫 | 生まれる現金 | 月商に対する割合 |
|---|---|---|---|
| 60日分 | 約1,381万円 | 約119万円 | 約0.1か月分 |
| 45日分 | 約1,036万円 | 約464万円 | 約0.5か月分 |
| 30日分 | 約690万円 | 約810万円 | 約0.8か月分 |
30日分まで減らして生まれる現金は、月商のおよそ0.8か月分です。手元流動性(すぐ使えるお金が月商の何か月分あるか)を、金利の負担なしに厚くできます。
減らしすぎれば欠品が起きるので、目指すのは欠品しない最小の量です。商品ごとに、本当に必要な量を見直してみましょう。
よくあるのは、中身の偏り、まとめ買い、決算対策の仕入です。
在庫の総額だけを見ていると気づけません。商品別・品番別に回転期間を計算してみましょう。たとえば例の会社の在庫1,500万円を分けてみると、次のような姿が見えてくることがあります。
| 商品グループ | 在庫金額 | 年間売上原価 | 在庫回転期間 |
|---|---|---|---|
| 売れ筋 | 400万円 | 5,900万円 | 約25日 |
| 普通 | 500万円 | 2,500万円 | 約73日 |
| 1年以上動いていない | 600万円 | 0円 | ― |
売れ筋は欠品ぎみなのに、在庫金額の4割は1年以上動いていない商品です。総額では「2か月分ちょっと」でも、中身が入れ替わっていなければ適正な在庫とはいえません。
数量割引は、在庫を抱える期間のコストと比べて判断します。値引き率が、その間の金利・保管費用・古くなるリスクの合計を下回るなら、まとめ買いは損です。
100万円分を3%引きの97万円で仕入れ、売り切るまで1年かかる場合 値引きの得:3万円 1年分のコスト(仮に金利年2%、保管費年2%とすると):97万円 × 4% = 約3.9万円
この仮定では、値引きの得より抱えるコストのほうが大きくなります。
「利益が出そうだから、期末に仕入れておこう」という判断は、節税になりません。期末に売れ残った商品は棚卸資産として資産に計上され、その期の損金(税務上の費用)にならないからです。
損金になるのは、売れた分の原価(売上原価)だけです。税金は減らず、現金だけが減ります。
捨てたり安く売ったりすれば損金になりますが、帳簿の上で評価を下げる「評価損」は、条件がかなり限られます。
法人税法では、資産の評価を下げても原則として損金になりません(法人税法33条)。例外として、棚卸資産の評価損が認められるのは次のような場合です(法人税法施行令68条1項1号)。
| 認められる場合 | 具体例 |
|---|---|
| 災害で著しく損傷した | 火災・水害で商品が傷んだ |
| 著しく陳腐化した | 季節商品が売れ残り、今後ふつうの値段では売れないことが過去の実績から明らか/型式・性能が大きく違う新製品が出て、ふつうには売れなくなった |
| 上の2つに準ずる事実がある | 破損、型崩れ、たなざらし、品質の変化で、ふつうの方法では売れなくなった |
一方、時価が単に物価の変動や作りすぎ、建値(メーカーの基準価格)の変更で下がっただけでは、評価損は認められません(法人税基本通達9-1-4〜9-1-6)。
評価損を計上するには、決算で費用として処理すること(損金経理)も必要です。なお、期末の時価が原価より低ければ時価で評価する方法を「低価法」といいます。低価法を税務署に届け出ている会社は、時価の下落分を評価額に反映できます(法人税法施行令28条・29条)。届け出ていなければ、最終仕入原価法による原価法で評価します(同31条)。
実際に廃棄した場合は、廃棄した事業年度の損金になります。ただし、廃棄した事実を示せる記録が欠かせません。
税務調査で問題になりやすいのは、「帳簿からは消えているのに、廃棄の記録がない」ケースです。廃棄するときは、記録づくりも必ずセットで行いましょう。
廃棄より、値下げしてでも売るほうが有利なことが多くあります。現金が入り、廃棄費用もかからないからです。セット販売や業者への一括売却も選択肢です。
直近の決算書があれば、次の順で始められます。
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商品別の在庫回転期間の把握から、売れない在庫の処分方法と税務上の取扱いまで、あわせてご支援します。当事務所へお気軽にご相談ください。
※本記事は2026年10月時点の法令・通達に基づく一般的な解説です。棚卸資産の評価損・廃棄損を損金にできるかどうかは、個別の事実関係によって判断が異なります。実行前に必ずご相談ください。