
この記事の要点
「内部留保は十分あるのに、なぜお金が足りないのでしょうか」。経営者の方から、よくいただくご相談です。
あるとは限りません。内部留保(決算書では利益剰余金)は、過去の利益から配当などを差し引いて会社に残してきた累計額で、現預金の残高とは別物です。
稼いだ利益に見合うお金は、設備・在庫・売掛金などに形を変えたり、借入金の返済に使われたりしています。
次の会社を例に、通しで考えます。
| 資産 | 金額 | 負債・純資産 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現預金 | 1,000万円 | 買掛金など | 3,000万円 |
| 売掛金 | 2,500万円 | 借入金 | 5,000万円 |
| 在庫 | 1,500万円 | (負債合計) | 8,000万円 |
| 役員貸付金 | 800万円 | 資本金 | 300万円 |
| 土地・建物・設備 | 3,500万円 | 利益剰余金 | 1,700万円 |
| その他(長期前払費用など) | 700万円 | (純資産合計) | 2,000万円 |
| 総資産 | 1億円 | 負債・純資産合計 | 1億円 |
利益剰余金1,700万円に対し、現預金は1,000万円です。
利益剰余金を含む純資産が表すのは、会社が赤字にどれだけ耐えられるかという体力です。
自己資本比率 = 純資産 ÷ 総資産 × 100 で計算します。総資産のうち、返済のいらないお金でまかなっている割合です(この記事では、純資産をそのまま自己資本として計算します)。
例の会社:2,000万円 ÷ 1億円 × 100 = 20%
20%とは、「資産の価値が2割(2,000万円)失われるまでは、債務超過(負債が資産を上回る状態)にならない」という意味です。累計2,000万円の赤字で純資産はゼロになります。ただし、現預金が尽きればその前に支払いが止まります。
この記事では、次の区切りを目安にします。
| 自己資本比率 | 状態の目安 |
|---|---|
| マイナス(債務超過) | 新規融資の審査がかなり厳しくなる |
| 0%〜20%未満 | 借入への依存度が高い。赤字が続くと債務超過の危険がある |
| 20%〜40%未満 | 借入と自己資本のバランスがとれている |
| 40%以上 | 財務的に安定している |
この区切りは法令などで決まった基準ではありません。金融機関も、比率だけでなく収益力や資金繰りとあわせて判断します。設備投資を借入でまかなう割合など、資産と資金調達の構成によって、業種ごとの水準も大きく変わります。
業種別の平均値は、中小企業庁の中小企業白書の付属統計資料で確認できます。
決算書の数字だけでは判断しません。金融機関は資産を「本当の価値」で評価し直して自己資本比率を計算し、収益力や返済能力も合わせて見ます。こうして作り直した貸借対照表を、実態バランスシート(実態BS)と呼びます。
例の会社では、次のとおりです。
| 修正する項目 | 減額 |
|---|---|
| 回収見込みのない売掛金 | 300万円 |
| 売れない在庫 | 400万円 |
| 役員貸付金(この例では全額回収できないと評価) | 800万円 |
| 長期前払費用など(資産価値が乏しい) | 100万円 |
| 土地の含み損 | 500万円 |
| 合計 | 2,100万円 |
| 項目 | 決算書 | 実態 |
|---|---|---|
| 総資産 | 1億円 | 7,900万円 |
| 純資産 | 2,000万円 | ▲100万円 |
| 自己資本比率 | 20% | ▲1.3%(債務超過) |
決算書では20%でも、実態では債務超過と判定されることがあります。減価償却の計上不足があればさらに減額され、逆に含み益があれば加算されることもあります。
回収しにくい資産とみなされ、「会社のお金を私的に使っている」という印象も与えるからです。
税務上の問題もあります。会社が役員に無利息や低い金利でお金を貸すと、本来受け取るべき利息との差額が役員への給与とされ、課税されることがあります。本来の利息は、会社が借りたお金を貸した場合はその借入金の利率、それ以外は貸した年ごとに決まった利率(2026年中の貸付けは年1.3%)で計算します。差額が年5,000円以下の場合などは、課税しなくてよいことになっています(国税庁 タックスアンサー No.2606)。
解消の方法には、役員報酬や個人資産からの返済、役員退職金との相殺(時期と金額の検討が必要)などがあります。
「利益を残して純資産を増やす」か「総資産を減らす」かです。例の会社で効果を比べます(利益と同額の現預金が増え、表に書いた返済・売却などのほかは資産・負債が変わらず、費用や税金はかからない前提)。
| 方法 | 総資産 | 純資産 | 自己資本比率 |
|---|---|---|---|
| 現状 | 1億円 | 2,000万円 | 20.0% |
| 税引後利益300万円を借入返済に回す | 1億円 | 2,300万円 | 23.0% |
| 税引後利益300万円を現預金で残す | 1億300万円 | 2,300万円 | 22.3% |
| 遊休資産500万円を帳簿価額で売却し、借入を返す | 9,500万円 | 2,000万円 | 21.1% |
| 社長からの借入金1,000万円をDESで資本に振り替える | 1億円 | 3,000万円 | 30.0% |
例の会社が40%を目指す場合、税引後利益が年300万円なら次のとおりです。
| 利益の使い方 | 必要な利益の累計 | かかる年数 |
|---|---|---|
| 毎年、借入返済に回す(総資産は1億円のまま) | 2,000万円 | 約6.7年 |
| 毎年、現預金で残す(総資産も増える) | 約3,333万円 | 約11.1年 |
時間はかかっても、利益を出して税金を払い、残すことが本道です。行き過ぎた節税は、法人税を減らす代わりにこの年数を延ばします。
遊休の車両・不動産・ゴルフ会員権の売却や、余った現金での借入返済です。返済は手元流動性(すぐに使えるお金)を損なわない範囲にとどめます。借入が減れば債務償還年数も改善します。
DES(デット・エクイティ・スワップ)は、社長からの借入金を株式(資本)に振り替える方法です(表では、借入金5,000万円のうち1,000万円が社長からで、その債権の時価が額面と同じ1,000万円と仮定)。社長の貸付債権の時価が額面を下回ると、差額が債務消滅益(借金が消えたことによる利益)として益金に算入され、繰越欠損金などの状況によっては法人税がかかります。株価や他の株主への影響もあるため、事前の検討が欠かせません。
利益を積み上げて純資産が増えると、非上場株式の相続税評価額(自社株の株価)を押し上げる要因になります。財務を厚くすることと、後継者に株を引き継ぐときの税負担は、方向が逆になります。事業承継を控えている場合は、自社株の評価もあわせて確認しておくと安心です。
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決算書をお預かりすれば、実態ベースの自己資本比率の算出から、役員貸付金の解消計画、比率を上げるための計画づくりまで一体でご提案します。当事務所へお気軽にご相談ください。
※本記事は2026年10月時点の情報に基づく解説です。金融機関の評価方法は各行で異なります。DESや自社株評価の取扱いは個別の事実関係により大きく変わるため、実行前に必ずご相談ください。
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