内部留保は現金ではない|自己資本比率で見る会社の耐久力

監修:税理士法人Aoi Plus(公認会計士・税理士)

内部留保は現金ではない|自己資本比率で見る会社の耐久力

この記事の要点

  • 内部留保(利益剰余金)は過去の利益から配当などを差し引いて会社に残した累計で、同じ額の現預金があるとは限りません
  • 自己資本比率(純資産 ÷ 総資産)は、資産がどれだけ目減りするまで債務超過にならないかを表します(例:20%なら、資産の2割まで)
  • 金融機関は回収できない売掛金や役員貸付金などを差し引いて評価し直すため、決算書の比率がプラスでも、実態は債務超過と判定されることがあります
  • 利益を現預金で残すと総資産も増えるため、借入返済に回すより比率は上がりにくくなります(例:総資産1億円・税引後利益年300万円で20%を40%にするには、返済なら約6.7年、現預金なら約11.1年)
  • 利益を積み上げて純資産を厚くすると財務は安定しますが、自社株の相続税評価額を押し上げる要因にもなるため、事業承継を控えている場合はあわせて確認が必要です

「内部留保は十分あるのに、なぜお金が足りないのでしょうか」。経営者の方から、よくいただくご相談です。

内部留保があれば現金もある?

あるとは限りません。内部留保(決算書では利益剰余金)は、過去の利益から配当などを差し引いて会社に残してきた累計額で、現預金の残高とは別物です。

稼いだ利益に見合うお金は、設備・在庫・売掛金などに形を変えたり、借入金の返済に使われたりしています。

次の会社を例に、通しで考えます。

資産金額負債・純資産金額
現預金1,000万円買掛金など3,000万円
売掛金2,500万円借入金5,000万円
在庫1,500万円(負債合計)8,000万円
役員貸付金800万円資本金300万円
土地・建物・設備3,500万円利益剰余金1,700万円
その他(長期前払費用など)700万円(純資産合計)2,000万円
総資産1億円負債・純資産合計1億円

利益剰余金1,700万円に対し、現預金は1,000万円です。

利益剰余金を含む純資産が表すのは、会社が赤字にどれだけ耐えられるかという体力です。

自己資本比率はどう計算する?

自己資本比率 = 純資産 ÷ 総資産 × 100 で計算します。総資産のうち、返済のいらないお金でまかなっている割合です(この記事では、純資産をそのまま自己資本として計算します)。

例の会社:2,000万円 ÷ 1億円 × 100 = 20%

20%とは、「資産の価値が2割(2,000万円)失われるまでは、債務超過(負債が資産を上回る状態)にならない」という意味です。累計2,000万円の赤字で純資産はゼロになります。ただし、現預金が尽きればその前に支払いが止まります。

この記事では、次の区切りを目安にします。

自己資本比率状態の目安
マイナス(債務超過)新規融資の審査がかなり厳しくなる
0%〜20%未満借入への依存度が高い。赤字が続くと債務超過の危険がある
20%〜40%未満借入と自己資本のバランスがとれている
40%以上財務的に安定している

この区切りは法令などで決まった基準ではありません。金融機関も、比率だけでなく収益力や資金繰りとあわせて判断します。設備投資を借入でまかなう割合など、資産と資金調達の構成によって、業種ごとの水準も大きく変わります。

業種別の平均値は、中小企業庁の中小企業白書の付属統計資料で確認できます。

金融機関は決算書どおりに見る?

決算書の数字だけでは判断しません。金融機関は資産を「本当の価値」で評価し直して自己資本比率を計算し、収益力や返済能力も合わせて見ます。こうして作り直した貸借対照表を、実態バランスシート(実態BS)と呼びます。

よく差し引かれる資産は?

例の会社では、次のとおりです。

修正する項目減額
回収見込みのない売掛金300万円
売れない在庫400万円
役員貸付金(この例では全額回収できないと評価)800万円
長期前払費用など(資産価値が乏しい)100万円
土地の含み損500万円
合計2,100万円
項目決算書実態
総資産1億円7,900万円
純資産2,000万円▲100万円
自己資本比率20%▲1.3%(債務超過)

決算書では20%でも、実態では債務超過と判定されることがあります。減価償却の計上不足があればさらに減額され、逆に含み益があれば加算されることもあります。

役員貸付金はなぜ嫌われる?

回収しにくい資産とみなされ、「会社のお金を私的に使っている」という印象も与えるからです。

税務上の問題もあります。会社が役員に無利息や低い金利でお金を貸すと、本来受け取るべき利息との差額が役員への給与とされ、課税されることがあります。本来の利息は、会社が借りたお金を貸した場合はその借入金の利率、それ以外は貸した年ごとに決まった利率(2026年中の貸付けは年1.3%)で計算します。差額が年5,000円以下の場合などは、課税しなくてよいことになっています(国税庁 タックスアンサー No.2606)。

解消の方法には、役員報酬や個人資産からの返済、役員退職金との相殺(時期と金額の検討が必要)などがあります。

自己資本比率を上げるには?

「利益を残して純資産を増やす」か「総資産を減らす」かです。例の会社で効果を比べます(利益と同額の現預金が増え、表に書いた返済・売却などのほかは資産・負債が変わらず、費用や税金はかからない前提)。

方法総資産純資産自己資本比率
現状1億円2,000万円20.0%
税引後利益300万円を借入返済に回す1億円2,300万円23.0%
税引後利益300万円を現預金で残す1億300万円2,300万円22.3%
遊休資産500万円を帳簿価額で売却し、借入を返す9,500万円2,000万円21.1%
社長からの借入金1,000万円をDESで資本に振り替える1億円3,000万円30.0%

利益を残すと何年かかる?

例の会社が40%を目指す場合、税引後利益が年300万円なら次のとおりです。

利益の使い方必要な利益の累計かかる年数
毎年、借入返済に回す(総資産は1億円のまま)2,000万円約6.7年
毎年、現預金で残す(総資産も増える)約3,333万円約11.1年

時間はかかっても、利益を出して税金を払い、残すことが本道です。行き過ぎた節税は、法人税を減らす代わりにこの年数を延ばします。

総資産を減らすには?

遊休の車両・不動産・ゴルフ会員権の売却や、余った現金での借入返済です。返済は手元流動性(すぐに使えるお金)を損なわない範囲にとどめます。借入が減れば債務償還年数も改善します。

DESとは?

DES(デット・エクイティ・スワップ)は、社長からの借入金を株式(資本)に振り替える方法です(表では、借入金5,000万円のうち1,000万円が社長からで、その債権の時価が額面と同じ1,000万円と仮定)。社長の貸付債権の時価が額面を下回ると、差額が債務消滅益(借金が消えたことによる利益)として益金に算入され、繰越欠損金などの状況によっては法人税がかかります。株価や他の株主への影響もあるため、事前の検討が欠かせません。

株価への影響は?

利益を積み上げて純資産が増えると、非上場株式の相続税評価額(自社株の株価)を押し上げる要因になります。財務を厚くすることと、後継者に株を引き継ぐときの税負担は、方向が逆になります。事業承継を控えている場合は、自社株の評価もあわせて確認しておくと安心です。

まとめ:まず何から始める?

  • 直近3期の純資産と総資産から、自己資本比率の推移を出す
  • 回収不能な売掛金、売れない在庫、役員貸付金、償却不足を差し引き、実態の自己資本比率を出す
  • 実態でマイナス(債務超過)になっていないかを確かめる
  • 役員貸付金があれば、返済や相殺の計画を立てる
  • 事業承継を予定しているなら、自社株の評価も一緒に確認する

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※本記事は2026年10月時点の情報に基づく解説です。金融機関の評価方法は各行で異なります。DESや自社株評価の取扱いは個別の事実関係により大きく変わるため、実行前に必ずご相談ください。

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