
この記事の要点
「銀行は、決算書のどこを見て融資を決めているのでしょうか」。融資の相談を考え始めた経営者の方から、よくいただくご質問です。
金融機関が「この会社にいくらまで貸せるか」を判断するとき、返済能力を測る中心的な数字だからです。決算の数字は実績として残り、審査の土台になります。
債務償還年数を知らないままだと、次のようなことが起こりがちです。
金融機関が決算書で最初に確認するのは、主に次の数字です。
| 指標 | 見ていること |
|---|---|
| 債務償還年数 | 借入金を何年で返せるか |
| 自己資本比率 | 自己資本の厚み。債務超過(純資産がマイナス)でないか |
| 簡易キャッシュフロー | 毎年、返済の元手を生み出せているか |
自己資本比率の見方は、内部留保は現金ではないで解説しています。
借入金を、今の稼ぎで全部返し終えるまでに何年かかるかを表す数字です。
計算方法は金融機関によって違いがあります。この記事では、次の簡単な式を使います。
債務償還年数 = 有利子負債 ÷ 簡易キャッシュフロー
金融機関によっては「税引後当期純利益 + 減価償却費」で計算するところもあります。減価償却費を足し戻すのは、帳簿上は費用でも、その年に現金が出ていかないからです。
この記事では、次の会社を例に通しで計算します。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 借入金(有利子負債) | 1億円 |
| 現預金 | 2,000万円 |
| 経常利益 | 600万円 |
| 減価償却費 | 400万円 |
| 法人税等 | 150万円 |
簡易キャッシュフロー:600万円 + 400万円 - 150万円 = 850万円 債務償還年数:1億円 ÷ 850万円 = 約11.8年
10年以内が一つの参考目安として使われます。ただし、計算方法や業種、資金の使い道、今後の収益見通しなどによって判断は変わります。
事業再生の場面で使われる中小企業の事業再生等に関するガイドライン(全国銀行協会)では、再生型の私的整理の計画について、計画の終了年度に「有利子負債の対キャッシュフロー比率が概ね10倍以下」となる内容とすることが示されています(業種特性などの合理的な理由があれば、10倍を超える計画も認められます)。これは経営が厳しい会社の再生計画の目安で、通常の融資の基準ではありません。
実際に何年までを許容するかは金融機関ごとの内部基準で、公表された統一の基準はありません。設備投資の回収期間や資産の性質も考慮されます。
例の会社の約11.8年は、10年の目安より少し長い水準です。
手元の現預金は、返済に回せるお金です。そこで、次のように現預金を差し引いた実質の年数も併せて見る金融機関があります。
実質の債務償還年数 =(有利子負債 - 現預金)÷ 簡易キャッシュフロー
例の会社:(1億円 - 2,000万円)÷ 850万円 = 約9.4年
約11.8年と約9.4年では、印象が大きく変わります。ただし、担保に入っている預金や、毎月の支払いに必要な資金は差し引けないと見られることがあります。決算書を出すときに、この計算を自社から示しておきましょう。
減価償却費以外の経費を増やして利益を減らすと、税金は減りますが債務償還年数は伸びます。節税と融資の評価が、トレードオフ(一方を取ると他方を失う関係)になる場面です。減価償却費が増えて利益が減る場合は、簡易キャッシュフローの計算で足し戻すため、税額が同じなら年数は変わりません(税金が減れば、むしろ短くなります)。
例の会社が決算対策で経費を400万円増やし、経常利益を600万円から200万円に圧縮したとします。法人税等は経常利益の25%と仮定します。
| 項目 | 圧縮しない | 利益を圧縮 |
|---|---|---|
| 経常利益 | 600万円 | 200万円 |
| 法人税等(25%と仮定) | 150万円 | 50万円 |
| 簡易キャッシュフロー | 850万円 | 550万円 |
| 債務償還年数 | 約11.8年 | 約18.2年 |
| 現預金を差し引いた年数 | 約9.4年 | 約14.5年 |
税金は約100万円減りますが、債務償還年数は約11.8年から約18.2年に伸びます。現預金を差し引いても10年を大きく超えてしまいます。近く設備投資などで借入を予定している会社には、減った税金より大きな損失になりかねません。
反対に、当面借入の予定がなく手元資金も厚い会社なら、適正な範囲での節税は合理的な選択です。節税するかどうかは、資金調達の予定とあわせて判断します。
※借入金・現預金・減価償却費は据え置いて比べています。増えた経費の支払いで現預金が減れば、実質の年数はさらに伸びます。実際の法人税等は課税所得(税務上の利益)から計算します。
法人税では、減価償却費は確定した決算で償却費として計上(損金経理)した金額のうち、上限(償却限度額)までが経費として認められます(法人税法31条)。決算で計上しなければその期の経費にはならないため、赤字を避けようと計上を見送る会社もあります。ただし会社法のルールでは、償却すべき資産は毎期「相当の償却」をしなければなりません(会社計算規則5条2項)。
金融機関も審査で、償却不足額を利益から差し引いて評価し直すことがあります。差し引いた結果が赤字なら、決算書の見た目は黒字でも実質は赤字と判断されます。減価償却は、毎期きちんと計上しておきましょう。
利益を増やすか、借入金を減らすかのどちらかです。具体的には次の方法があります。
返済を急いで手元資金が薄くなると、今度は手元流動性(すぐに使えるお金がどれだけあるか)の評価が下がります。
決算日の3か月前に、次の手順で確認しておきましょう。
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試算表をお預かりすれば、着地見込みの利益と債務償還年数、今後の資金需要を並べて、融資評価を踏まえた決算対策をご提案します。当事務所へお気軽にご相談ください。
※本記事は2026年10月時点の情報に基づく解説です。審査基準や評価方法は金融機関ごとに異なり、記載の目安は一般的な実務慣行であって融資の可否を保証するものではありません。
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