銀行が決算書で最初に見る数字|債務償還年数と節税

監修:税理士法人Aoi Plus(公認会計士・税理士)

銀行が決算書で最初に見る数字|債務償還年数と節税

この記事の要点

  • 債務償還年数は「有利子負債 ÷ 簡易キャッシュフロー」で計算し、借入金を今の稼ぎで返し終えるまでの年数を表します
  • 10年以内が一つの参考目安として使われますが、公表された統一の基準はなく、計算方法や業種、今後の収益見通しなどで判断は変わります
  • 現預金を差し引いた「実質の年数」を自社から示すと、評価が変わることがあります(例:借入金1億円・現預金2,000万円なら、約11.8年が約9.4年に)
  • 減価償却費以外の経費で利益を圧縮して節税すると、税金は減っても債務償還年数は伸びます(例:経常利益600万円を200万円にすると、約11.8年が約18.2年に)
  • 減価償却費の計上を見送って黒字に見せても、金融機関は償却不足額を差し引いて利益を評価し直すことがあります

「銀行は、決算書のどこを見て融資を決めているのでしょうか」。融資の相談を考え始めた経営者の方から、よくいただくご質問です。

なぜ債務償還年数を知っておくべき?

金融機関が「この会社にいくらまで貸せるか」を判断するとき、返済能力を測る中心的な数字だからです。決算の数字は実績として残り、審査の土台になります。

債務償還年数を知らないままだと、次のようなことが起こりがちです。

  • 節税のつもりで利益を減らし、融資の評価を下げてしまう
  • 借りたいときに、思った額を借りられない
  • 決算書の数字を、金融機関にどう説明すればよいか分からない

金融機関が決算書で最初に確認するのは、主に次の数字です。

指標見ていること
債務償還年数借入金を何年で返せるか
自己資本比率自己資本の厚み。債務超過(純資産がマイナス)でないか
簡易キャッシュフロー毎年、返済の元手を生み出せているか

自己資本比率の見方は、内部留保は現金ではないで解説しています。

債務償還年数はどう計算する?

借入金を、今の稼ぎで全部返し終えるまでに何年かかるかを表す数字です。

計算方法は金融機関によって違いがあります。この記事では、次の簡単な式を使います。

債務償還年数 = 有利子負債 ÷ 簡易キャッシュフロー

  • 有利子負債…銀行借入金や社債など、利息を払う必要がある負債
  • 簡易キャッシュフロー…返済の元手を概算する数字。実務ではおおむね「経常利益 + 減価償却費 - 法人税等」で計算します。売掛金・在庫の増減や設備投資は入らないため、実際の資金繰りとは異なります

金融機関によっては「税引後当期純利益 + 減価償却費」で計算するところもあります。減価償却費を足し戻すのは、帳簿上は費用でも、その年に現金が出ていかないからです。

この記事では、次の会社を例に通しで計算します。

項目金額
借入金(有利子負債)1億円
現預金2,000万円
経常利益600万円
減価償却費400万円
法人税等150万円

簡易キャッシュフロー:600万円 + 400万円 - 150万円 = 850万円 債務償還年数:1億円 ÷ 850万円 = 約11.8年

何年以内なら安心?

10年以内が一つの参考目安として使われます。ただし、計算方法や業種、資金の使い道、今後の収益見通しなどによって判断は変わります。

事業再生の場面で使われる中小企業の事業再生等に関するガイドライン(全国銀行協会)では、再生型の私的整理の計画について、計画の終了年度に「有利子負債の対キャッシュフロー比率が概ね10倍以下」となる内容とすることが示されています(業種特性などの合理的な理由があれば、10倍を超える計画も認められます)。これは経営が厳しい会社の再生計画の目安で、通常の融資の基準ではありません。

実際に何年までを許容するかは金融機関ごとの内部基準で、公表された統一の基準はありません。設備投資の回収期間や資産の性質も考慮されます。

例の会社の約11.8年は、10年の目安より少し長い水準です。

現預金を差し引いた「実質の年数」も見てもらう

手元の現預金は、返済に回せるお金です。そこで、次のように現預金を差し引いた実質の年数も併せて見る金融機関があります。

実質の債務償還年数 =(有利子負債 - 現預金)÷ 簡易キャッシュフロー

例の会社:(1億円 - 2,000万円)÷ 850万円 = 約9.4年

約11.8年と約9.4年では、印象が大きく変わります。ただし、担保に入っている預金や、毎月の支払いに必要な資金は差し引けないと見られることがあります。決算書を出すときに、この計算を自社から示しておきましょう。

節税すると融資評価はどう変わる?

減価償却費以外の経費を増やして利益を減らすと、税金は減りますが債務償還年数は伸びます。節税と融資の評価が、トレードオフ(一方を取ると他方を失う関係)になる場面です。減価償却費が増えて利益が減る場合は、簡易キャッシュフローの計算で足し戻すため、税額が同じなら年数は変わりません(税金が減れば、むしろ短くなります)。

例の会社が決算対策で経費を400万円増やし、経常利益を600万円から200万円に圧縮したとします。法人税等は経常利益の25%と仮定します。

項目圧縮しない利益を圧縮
経常利益600万円200万円
法人税等(25%と仮定)150万円50万円
簡易キャッシュフロー850万円550万円
債務償還年数約11.8年約18.2年
現預金を差し引いた年数約9.4年約14.5年

税金は約100万円減りますが、債務償還年数は約11.8年から約18.2年に伸びます。現預金を差し引いても10年を大きく超えてしまいます。近く設備投資などで借入を予定している会社には、減った税金より大きな損失になりかねません。

反対に、当面借入の予定がなく手元資金も厚い会社なら、適正な範囲での節税は合理的な選択です。節税するかどうかは、資金調達の予定とあわせて判断します。

※借入金・現預金・減価償却費は据え置いて比べています。増えた経費の支払いで現預金が減れば、実質の年数はさらに伸びます。実際の法人税等は課税所得(税務上の利益)から計算します。

減価償却を見送るとどう見られる?

法人税では、減価償却費は確定した決算で償却費として計上(損金経理)した金額のうち、上限(償却限度額)までが経費として認められます(法人税法31条)。決算で計上しなければその期の経費にはならないため、赤字を避けようと計上を見送る会社もあります。ただし会社法のルールでは、償却すべき資産は毎期「相当の償却」をしなければなりません(会社計算規則5条2項)。

金融機関も審査で、償却不足額を利益から差し引いて評価し直すことがあります。差し引いた結果が赤字なら、決算書の見た目は黒字でも実質は赤字と判断されます。減価償却は、毎期きちんと計上しておきましょう。

債務償還年数を短くするには?

利益を増やすか、借入金を減らすかのどちらかです。具体的には次の方法があります。

  • 利益を増やす:例の会社が10年以内にするには、簡易キャッシュフローを1,000万円にする必要があります。法人税等を経常利益の25%と仮定すると、経常利益で800万円です
  • 手元資金で借入を返済する:見かけの年数は短くなります(1,000万円返済すると約10.6年)。ただし、現預金を差し引いた実質の年数は約9.4年のまま変わらず、手元の資金だけが減ります
  • 使っていない資産を売って返済に充てる:遊休の車両・不動産・ゴルフ会員権など。売却損が出ても、借入金が減る効果と併せて判断します(売却費用や税金を差し引いて500万円を返済に回し、簡易キャッシュフローが変わらなければ約11.2年)
  • 社長からの借入金を整理する:社長個人からの借入金(役員借入金)は、実質的な自己資本として評価されることがあります。決め手は表示や説明ではなく、返済期限・金利の条件、ほかの借入より後回しで返す(劣後する)か、返済の実態です。会計上の純資産になるわけではありません(参考:金融庁「資本性借入金」の取扱い)。事前に相談しておくと安心です

返済を急いで手元資金が薄くなると、今度は手元流動性(すぐに使えるお金がどれだけあるか)の評価が下がります。

まとめ:決算前に何をする?

決算日の3か月前に、次の手順で確認しておきましょう。

  • 直近の決算書から、有利子負債・経常利益・減価償却費・法人税等・現預金を拾う
  • 債務償還年数と、現預金を差し引いた実質の年数を計算する(目安は10年以内)
  • 過去3期分を並べて、年数が伸びているか縮んでいるかを確認する
  • 今後2年以内に、設備投資や大口の運転資金の借入予定があるかを洗い出す
  • 利益を圧縮した場合に年数が何年になるかを試算し、決算対策の方針と突き合わせる
  • 減価償却は見送らずに計上し、債務超過になっていないかも確認する

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試算表をお預かりすれば、着地見込みの利益と債務償還年数、今後の資金需要を並べて、融資評価を踏まえた決算対策をご提案します。当事務所へお気軽にご相談ください。

※本記事は2026年10月時点の情報に基づく解説です。審査基準や評価方法は金融機関ごとに異なり、記載の目安は一般的な実務慣行であって融資の可否を保証するものではありません。

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